2020/05/22

トキオ区で出来ることはすべてやり切った。
残された最後の政策…それは、
日本から独立するというものだ。
人口が20万人を超えると議会でこれの発議ができる。
(他に、コロニーのすべての空きスペースを埋める、全ての研究開発をする、支持率が8割前後といった要件があるかもしれない)
これまで圧倒的な強さで選挙を勝ち抜いてきた区長、当然議会も区長派が過半数以上を占めている。
が、それであってもなおこの法案の成立は厳しい。
ケンケンガクガクの論議が交わされ、そしてついに――
可決。
東京都第24区であったトキオ区は、この法案を以て日本から独立する。
そして翌月の10日後…

トキオ区が
トキオ国として、新たな主権国家の誕生を全世界に宣言する。
5月10日。それはトキオが日本から独立した記念日。インデペンデンスデイだ。
日本から独立というわけだが、別に独立戦争を起こしてコロニー落としをしたりするわけではない。
トキオ第一小学校の校歌が、小学生のへっぽこな演奏で奏でられるだけだ。
つまりOP曲と同じなのだが、それとはまた微妙に調子が違っている。わざわざこの日のために書き起こした曲なのだろう。
この力の入れ加減がずれまくっているところが実にこのゲームらしい。
かくして地上…ではなく軌道上に、全世界が羨む超完全完璧福祉国家が誕生した。
税金無し・食料自給率100%・20歳から毎月15万円支給・脅威の低失業率・高い治安と防火体制・膨大な緑地面積…
文字通り、天国である。

夜が明けても、雨のさなかでも、住民たちは独立記念日のパレードを続ける。
まぁひな祭りやらミストキオ祭といった毎月の祭りも同じ調子なのだが。

住民からの電話は、区長を称える声。最後のあいさつが「いふいふ」なのもトキオフリークとしては嬉しい。

テレビをつけてみる。
相変わらずトキオでは妙な髪型が流行っている。
その髪型は今だといろいろ物議をかもしそうな気がするのだが…

その後3年ほど区長運営を続けてみた。
人口も順調に増え、支持率も殆ど変わらず。
それはそうだ。これほど完成された福祉国家は、過去にも、そして未来にもおそらくないだろうから。
区民のために走り続けた区長は、区民の笑顔のために、これからも永遠に走り続けるであろう。

トキオ 東京都第24区
- 完 -
(追記)
実際区長の政権は未来永劫本当に続くのか、学生時代試したことがある。
今とは比べ物にならないくらい重く嵩張る98noteを机の上に置き、放置。
人口が増えたことによりリサイクル施設も限界を迎え、ゴミがそこら中にあふれ出す。
上水道もきれいな水を供給しきれくなり、犯罪率も上がる。
コロニーのミラーが割れても殆ど修理せずのズボラ運営。
だがそれでもなお税金無しとベーシックインカムのおかげか、
西暦3000年を迎えてもなお、区長も区民もピンピンしていた。
区長も歳を取らなければ、園児はいつまでも「裏の田んぼにマッカチンがいるんだぜ、いいだろー」と言っている。
閉鎖空間における輪廻という、実にSFチックな世界を堪能したのであった。
■感想90年代のアートディンクは輝いていた(今も頑張ってると思うけど)。
作るゲームは全てエッジが効いており、このゲームもただのシムシティーの模倣では終わっていない。
いかにもアートディンクらしい、知的でおもろいわけのわからないエッセンスがちりばめられていた。
あまりこういう言葉は好きではないのだが、とても日本的というか。
かつて日本は欧米の電化製品を模倣し、模倣だけにとどまらず大小さまざまなエッセンスを加えたそれは世界を席巻した。
バブルは弾けたものの、まだそのような力が日本にあるとみんなが信じ切っていたこの時代。
トキオもまた、洋ゲーを更に昇華して世界を席巻するパワーがあると、本気で信じていた。
少なくとも私は。
90年代前半は、そうした未来への希望が何だかんだ一番大きかった時代ではないだろうか。
だからこそトキオやら光栄の
スーパードッグワールドのような、
どうすんだこれ…みたいなゲームでも続々商品化されていた。
windows95という黒船が日本市場を一掃するまで、日本のPCゲーム界は駘蕩としたぬるま湯のような世界だった。
ここまでのんびりとした時代は今後しばらくは、あるいは永遠に来ないのかもしれないが、そんな時代でこそ生まれた「トキオ」。
私としては、それはとても居心地のよいものであった。
おわり