ねじ式(ウィル/ツァイト)

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■紹介
1989年、当時グラフィックツール会社として名を馳せていたツァイトがプロデュース。
現在タカラトミー等のデベロッパーをしているウィルの開発第一作として作られた作品。
この当時のゲーム画面としては恐ろしく描きこまれており、発売前から異常な存在感を放っていた。
だが発売後さっぱり話題にならなかった理由は、このゲームをしてみればわかるだろう。
つげマニアであればあるほどニヤリとする場面が多く、それだけでも十分すぎるほど楽しめる。
そうでない向きには恐ろしく腱鞘炎になるだけのゲームではあるが。

しかしとにもかくにも、ゲーム化不可能としか思えないつげ作品を何とかゲーム落としこもうとする懸命な試行錯誤。
しかもねじ式やゲンセンカン主人等有名どころだけでなく、必殺するめ固めや長八の宿等までも網羅して取りこんだその気概は本当に素晴らしい。
つげ作品が死ぬほど好きで、なおかつこの当時のPCゲーム全体が持っていた訳のわからない熱気が大好きな人にのみ許される、非常にニッチなゲームと言えよう。

■評価
B-

プレイ日記はこちら
簡易攻略はこちら
Amazon→つげ義春コレクション ねじ式/夜が掴む (ちくま文庫)


つげ義春ワールド ゲンセンカン主人

ねじ式 簡易攻略

■基本
・ひたすらコマンド総当たり。すると新しいキーワードを聞ける。そのキーワードについて更に他の人に聞いて回る。この繰り返し
・推理して出来るようなものでなく、ちょっとした世間話が次の場面に進む為の重要なキーワードだったりする
・ただし後述する札集めのシーンは意図的に時間移動が必要で、総当たりだと詰まりやすいので注意。

■詰まりそうな所
(札集め)
・過去と現在を行き来することになる。森に入ることが過去⇔現在のトリガになる。
・過去と現在を行き来せずに村を行き来したい場合、温泉の抜け穴やバスを利用すると良い。(コマンド総当たりだとここで詰まりやすい)

(3Dダンジョン)
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・このような画面になったら、ESCキーを押すことで移動モードになり、カーソルキーで移動できる
・↑は正面に移動。←→は左右に移動(旋回ではない)。↓は後ろを振り向く(後ろに移動ではない)
・もう一度ESCキーを押すと通常の会話モードになる
・移動方法は感覚を掴むまで非常にややこしい

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・例えばaから始まったとする。この時北に進みたい場合、↑を1回押すとbの画面になる。つまり体感的には1度に3歩進むイメージ
・cの場面に来た場合、左に進みたければ←を1回押す。そうするとdの位置に来る

(壁絵)
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・道中、ビルの中にある壁絵を見るとこのような赤い画面がスクロールする
・スクロールはかなり早いので演出のように思えるが、これも通常画面である。つまり「見回す」「見る」などのコマンドを使用できる

※上の二つは謎と言う訳ではないが、気付かないとドツボに嵌る。これからこのゲームを攻略する人(いるのか?)は厳重注意

(MAP)
・このゲームの全マップを記載する。こんなもの記載しているのはおそらく世界でここだけであろう。

□ビル
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□樹海
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□べんさんの住む山道に続く森・李さんがいる蔵
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□金太郎飴ビル
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□金太郎飴ビル(本物)下層
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□金太郎飴ビル(本物)上層
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ねじ式 15日目(最終回) 「輪廻」

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N浦にあった老婆の家に入ると、いつのまにか主人公「T」はトンネルを彷徨っていた。
そこから聞こえてくるのは「ゲンセンカン」の話…

そもそもこのゲームは、小説家(漫画家?)である「T」が、自分の自伝を描く為に自分がこれまで描いてきた創作世界にダイブする…という始まりだった。
しかしそうした行為自体が夢だった…というのがここまでの話だ。

今のTは、確かに現実世界を歩いていた。なのにいつの間にかまた創作世界にダイブしている。
いや、これはダイブなのか?夢ではないはずだ。Tは現実世界で確かに起きていたのだから。
すると現実に創作世界が存在しているということだろうか?
「ゲゲゲの鬼太郎」でいうブリガドーン現象みたいな…

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トンネルをひたすら進んでいくと、モノクロのお婆さんが語りかけ、そして消えて行く。
やがてトンネルの出口が見えて来た。
トンネルを抜けると…

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そこはゲンセンカン宿だった。
だがそのゲンセンカンには、主人が既に居た。
その主人が「T」を見て驚いている。Tは自分であると。
Tの姿は…

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お婆さんから買った天狗の面を付けたTその人であった。

-完-



完である。
これでこのゲームは終わりだ。

読んでる方はさっぱりわからないだろうが、書いている私もよくわからない。
無理やりこじつけてみる。

まず「ゲンセンカン主人」と言う漫画がある。つげ義春の代表作の一つだ。
ストーリーはこうだ。
ある寂れた街に男がやってきた。その男が駄菓子屋でメンコや天狗の面を買っていると、ゲンセンカンの主人に良く似ていると言われる。
ゲンセンカンと言うのはこの街の安宿で、今は主人と耳の聞こえない女の二人で経営しているが、かつては女が一人で経営していたという。
その昔この宿に男が泊まった。その男もメンコや天狗の面等を買っていた。
やがてその男はこの安宿の女と懇ろになり、この宿の主人となった。
このゲンセンカンに冒頭の男がやってきた。その男は、かつての男と同様天狗の面を付けて…

この漫画の解釈は色々あるが、全体的に前世の存在をにおわせていた。
とすればゲンセンカンの主人は前世あるいは後世の「自分」に出会ったと言うことだろう。

この解釈をこのゲームに当てはめると、夢の世界に生きている「T」に、現実の世界の「T」が会いに行った。
その後そのTは夢の世界の住人になり、やがてTはまたいつかTに出会うのだろう。

これの意味するものは何か?
現実世界のTは再び夢の世界を望んだ。あるいは胡蝶の夢の如く、そもそも夢の世界こそが本物なのか。
あるいは創作とは自分削りであり、結局自分を掘っては埋めてを繰り返すロンドのようなものだということか。
あるいは意味などないと言う意味か。
そもそもつげ作品に意味を求める行為こそが最も愚かな行為である。ならばこのゲームに関してもさもありなん…

このゲームを活字で表現するにはこれが限界だ。
活字で表現できない高みに達した所に、つげ作品と、そしてそれをモチーフにしたこのゲームにしかない凄味があるからだ。

このゲームの価値を問う場合、ゲーム性やユーザビリティ等に口に出すのは果てしなく愚かだ。
つげファンとしては、こうしたゲームが存在すること自体に感涙にむせぶ。
この世界のどこに、メメクラゲに刺された少年と一緒に冒険できるゲームが他にあると言うのか。
それだけでもう、充分なのである。

ねじ式 14日目 「現(うつつ)へ」

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全ての事は入院中に見ていた夢だった。
現実に戻った「T」は街をぶらつく。
現実の証拠に、街はカラーで彩られている。

Tは近所のS君なる家に来る。

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これがS君だ。
原作では・・・なんだったかな?
売れてはいないけどそこそこ食いつなげるだけの漫画家をしていて、近くの朝鮮部落の人に海老を持って行ってた青年だったか。
後期つげ作品のキャラなのは確かだが、この頃の人物絵は線が細いのが多かった気がする。
「無能の人」の頃はそうでもないんだけど。
まぁともかく、Tと同じような仕事をしているのは確かなようだ。

S君はじめ、アパートに住むカズ子や街にある喫茶店やら駅の駅員やらいろいろな人と話す。
プレイヤーからすれば何が何だかなのだが、Tは彼らと交友を持っていたようだ。
しばらく語り尽くした後、再びS君と話すと、何やら奇妙なことを言い出す。
「先日N浦でTさんを見た。でもその頃Tさんは入院してたはずなのでTさんのはずではない。ではあの人は何だったのだろう?」

喫茶店のウェイトレスもこう言っていた。
「N浦では、探し物がみつかるそうですよ」

このゲームはなにしろとにかくわけがわからないのだが、そのわけのわからなさの全ての答えが、どうやらN浦という場所にあるようだ。
街の住人と喋りつくすと駅に下り電車が来るフラグが立つ。

下り電車に乗ったTは誘われるようにN浦に降り立つ。

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ここは!
つげフリークなら常識の場所、「やなぎや主人」の舞台である長浦である。
つげ作品を知らなければさっぱり意味が分からないであろう。

何かに呼ばれるように流れて来たこの地。
ふと見ると、古ぼけた家屋があった。
中に入ると…

「おばあさんのしゃぶっているのはニッキのようですね」
「そうだよあげないよ」

の、あのお婆さんが居た。
「ゲンセンカン主人」に出て来た、あのお婆さんだ。

画面はいつの間にやら再びモノクロの世界になっていた。
そして目の前には先が見えない長い長いトンネルがあった。
入ってみると…

ねじ式 13日目 「目覚め」

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浜辺に立つ本物の金太郎ビルをかけのぼるこのゲームの主人公である「T」と、メメクラゲに腕をかまれた少年。
少年の腕の傷を直すにはこのビルに居る産婦人科医に手術してもらわなければならないようだ。

だが…このビル、恐ろしく複雑な作りをしている。
このゲームはところどころ3Dダンジョンを進むことになるのだが、以前にも書いたけれどこのゲームのダンジョン移動は特殊だ。
なにしろ一度に3歩ずつ進む為、ウィザードリィのような普通のダンジョンゲームを思い浮かべるとまずドツボにハマる。
丁寧なマッピングに加えて細かい空間把握も必要だ。
はっきり言って拷問である。
このビルのマッピングだけで3時間くらいかかってしまった。

やっとこさ登頂した主人公たち。
そこには原作通り、女医が居た。
それでは、女医に少年の腕を直してもらおうじゃないか。

それにしても、である。
なぜTは苦労してこのビルを上り詰めたのか、なぜこの少年に為にここまで東奔西走しなければならないのか。
まぁ夢の世界を描いているゲームなのでところどころ支離滅裂なのも仕様なのだが…
マッピングをしている私もすっかり手は腱鞘炎で目はしぱしぱして頭は考え過ぎて沸騰している。
リアルでもゲームでもすっかり夢現の気分である。

ともかくも手術が始まる。

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ギリギリギリギリギリ…と少年の腕を締めて行く…と思いきや、どうやら締められているのは自分の腕のようだった。
え?少年はどこ行った?どこにもいないぞ?どうなっているんだ?
もう夢なので何でもありである。このゲームはまともに考えては決してならない。

ふと気が付くと…

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そこは病院だった。
どうやら主人公「T」は原稿を出版社に持って行くときに足を滑らせて窓から落ちてしまったらしく、ずっと病院で寝ていたとのこと。
その時に見ていた夢の中の自分が、自分の自伝を書く為に、これまで自分が描いてきた作品の世界にダイブしていた、ようだ。
つまり夢の中で夢を見ていたのだ。
もうわけがわからない。

退院したTは街に出る。
そのマップ画面はこれまでとは違い、カラーであった。
やっと現実の世界に戻ってきた感がする。

終わりの時は近い…気がする。