シュタインズゲート 50日目 「神様(まゆりEND)」

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オカリンの戦いは、今ここに終結する。

SERNのデータベースに収集された、Dメールの痕跡。
これを消すことで、世界線は元に戻る。
まゆりが生き、紅莉栖が死んでしまうβ世界線に。

キーを叩くオカリン。
データベースへのクラッキング、開始。

その瞬間、リーディングシュタイナー発動。
世界線変動率は…1.130238%
鈴羽の言葉によれば、世界線変動率の1%超えはβ世界線への移動を意味する。

ついに、ついに…ついに!
オカリンは、まゆりが死なない、本来あるべきβ世界線へ戻ってきたのだ…!

見回すと、そこはラボの中。
さっきと同じように、ダルとまゆりが居る。

まゆりは微笑んで、こちらに手を重ねてくる。
そしてさっきまで触れていた自分の白衣の肩口。
紅莉栖が縫ってくれた不器用な裁縫跡は…

無い。

でこぼこした感触も、場違いなピンクの縫い糸も、全て綺麗さっぱり。

タイムリープマシンを見る。
いや、これは、ただの電話レンジ(仮)だ。
何故なら、紅莉栖が施した痕跡が消えているから。

このラボ全体の、紅莉栖の居た痕跡だけが、綺麗さっぱり消えていた。
紅莉栖はもう、この世界線では死んでいるからだ。20日も前に。

この世界には、ラボメンナンバー004牧瀬紅莉栖は、いない。
彼女はβ世界線に否定されたから。
ラボメンは最初から、オカリン、まゆり、ダルの3人だけだった…。

溢れる涙。
驚くまゆり。
もうどこにも行かないでくれとオカリンはまゆりに訴え、まゆりも涙ながらに頷く。
二人はこれまでも、これからもずっと、いっしょに居ることを誓う。

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紅莉栖の存在は消えた。
それこそが、世界が再構成された証。

そこは、SERNによる超管理社会のディストピアの可能性が消えた世界。
鈴羽がその身を犠牲にしてまで叶えようとした世界。
これまでと同じように、変わらぬ自由が約束された理想郷――



それから3日ほど経っても、まゆりが死ぬ事は無かった。
まゆりはこの世界では否定されていないと、確信。
その後、電話レンジ(仮)とIBN5100を解体した。
これによってSERNの襲撃という可能性も、完全に消えた。

1階では店長がいつものように変わらぬ姿で42型ブラウン管を愛でている。
過去の新聞に目を通すと、人工衛星がラジ館に落下した記事はついぞ無く。
そして新聞の端の方を見ると、牧瀬紅莉栖という名の少女がラジ館で殺された、という小さな記事が、載っていた。
牧瀬紅莉栖の存在はもう、オカリンの心の中にしか残らない存在になってしまったのだ――



オカリンとまゆりは、共にアキバを歩く。

二人はただの幼馴染、マッドサイエンティストと人質という何ともな関係から、恋人同士になっていた
まゆりを救う為に帆走してきた20日間を通して、オカリンはまゆりに対する自分の本当の気持ちに気付いたからだ。

そして、まゆりももちろん、これまでずっと言葉にはできなかったけど、自分の気持ちに気付いていた。
ただ、その最後の一押しを、夢の中で見た女の子に後押しされたという。

その子は名前も顔も思い出せないけど、すごく大切な友達で。
夢の中でその友達は、

「まゆり、あなたは、幸せになりなさい」

と言ってくれた。
その人がこういってくれたから、まゆしぃは今幸せなんだ。
この人、誰なんだろうねー?
そう朗らかに笑うまゆり。

牧瀬紅莉栖は、オカリンの心の中だけの存在ではなかった。
人はやはり、夢やデジャブという形で、異なる世界線を認識できるのだ。
それは牧瀬紅莉栖という具体的な形でなくても、その人は確かに居て、まゆりを救って、勇気をくれたのだ。

オカリンは答える。

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「きっと、神様だ。」

オカリンはα世界線からβ世界線に移動したことで、紅莉栖を殺した。
しかしそれはオカリンの主観でしかない。
紅莉栖の主観からすれば、そこにはまた別の世界が見えているはずだ。
彼女はどこかの世界線で、鳳凰院なんたらと口げんかする夢を見つつ、研究に勤しんでいるのだろうか。

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神様が居るなら、きっと空の上。
手をつなぎ空を見上げる二人。

まゆりとオカリンを救ってくれた、勇気をくれた「神様」もまた、どこかの世界線で同じ空を見上げているはず。
きっと――

(まゆりEND)





感想。

このルートの感想は、つらい。
オカリンのもたらしたDメールが周りをことごとく歪ませてしまうのも辛いし、紅莉栖が身を引くのも辛い。

とにかく紅莉栖のいい女っぷりがやばい。
実際はオカリンがβ世界線へ移動したことで、α世界線がどうなったかはわからない。
紅莉栖がα世界線で生きているのか、α世界線ごと消えてしまったのかは、わからない。
だけど、きっと別の世界線で生きていると信じたい。

ふと思ったのだが、IBN5100を手に入れてどうこうよりも、オカリンが一番最初のDメールを送る前に、その内容を否定するDメールを送れば良かったような。
「ああ見えて紅莉栖は生きている」とか…
そうすれば紅莉栖が死んだというメールも流れず、SERNも感知しなかったのでは無いか…?
まぁDメールは不確実性も高いから、より確実な手段を取ったということか。


ともあれ、これでオカリンは元の世界に戻った…はずであり、このゲームも終わる――


そんな訳がない。

根本的な謎が、まだ全然解決されていないではないか。

SERNの野望が潰えたはずのこのβ世界線であっても、

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タイムマシンは出現しているのだ。
物語の最序盤に、完全な姿で。
これはFG104、つまりダルの作ったタイムマシンだ。

さらに、初めてオカリンが紅莉栖に会った時、紅莉栖は15分ほど前に辛そうな顔をしたオカリンに話しかけられたといっていた。
つまりこの時間軸においてオカリンは二人居て、もう一人のオカリンはFG104を使って過去に来たのかもしれない。
何の為に?

そしてしれっとこの世界線のエンディングではIBN5100を解体したとあった。
これも良く考えるとおかしい。
オカリンが元居た世界線であれば、IBN5100がラボにある理由が不明だ。
鈴羽が過去に戻りIBN5100をフェイリスパパに託しそれが柳林神社に奉納される。
SERNによるディストピアが無いはずのこの世界線においては、鈴羽が過去に戻る理由も無く、故にオカリンの手元にIBN5100は無いはずだ。

まだある。
オカリンが一番最初のDメールを送る前に届いた、謎の差出人からのノイズ動画。
そのメールアドレスのアカウント名は、

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sg-epk
シュタインズゲート・エル・プサイ・コングルゥ?
オカリンの口癖だ。
これが何を意味するのか?

オカリンにたびたび届いた脅迫メールも気になる。
ゼリーや、人形の生首の絵が添付されたメールだ。
最初は萌郁かFBかと思ったが、どちらもそんな殊勝なメールを送る性格でもないだろう。
そもそもゼリーという添付画像は、「ゼリーマン」という存在を知っている側が送ったとしか思えない。
それは誰なのか?

更に。
オカリンは、紅莉栖が消えまゆりが生きるこのβ世界線こそが、自分が元居た世界だと思っている。
その世界線変動率は、1.130238%。

しかし、物語の冒頭、オカリンが一番最初のDメールを送る直前に表示されたβ世界線の世界線変動率は…

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1.130426%

まだ、終わっていないのだ。

そもそも、このβ世界線において、何故紅莉栖は殺されたのか?
誰が?
何の為に?

もっと別な何かは居る。確実に居る。

まだ、一番重要なルートが残っている。
次回からは、もう一度このゲームを最初からやり直し、そのルートに入ってみる。

シュタインズゲート 49日目 「see you」

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まゆりと心を通わせた翌日、オカリンは考え事をする為に再びラジ館の屋上に来る。

そこでは紅莉栖が大の字になって寝ていた。
なにやら考え事をしていたようである。

と、その時突然の夕立。
オカリンも紅莉栖もずぶぬれになり、あわててラジ館に入る。
そこは人工衛星…実際はタイムマシンだが、それによって屋上部分が半壊したまになっており、電気も通っておらず薄暗い。
まるで廃墟のようになっている。

2人は階段に横に並んで座り、ずぶ濡れになってしまった体を拭きつつ目が慣れてくると、紅莉栖のしどけない姿に、白衣の肩口が破れてしまったオカリンが見えてくる。
建物に入る際に引っ掛けて破いてしまったのだ。
それをたまたま持っていた裁縫セットで不器用に直してくれる紅莉栖。意外にもこう見えて家庭的なのか。
とりとめもないことを話しつつ茶化しあう二人。
そうしないと、やっていられないから。

これから紅莉栖に、死を告げるのだから。

しばらく気まずい沈黙が流れた後、紅莉栖は口を開く。
まゆりを助ける為に何度もタイムリープして一人戦っているオカリンの姿を、彼女もデジャブな感覚で見ていた。
それほど岡部はまゆりのことを愛してるんだなと。だからそんな一生懸命な岡部に協力してあげたくなった。
だから岡部はまゆりを助けるべきだと、彼女は言う。
彼女もまゆりと、あるいはフェイリスやルカ子と同様、重なった世界線を夢やデジャブのような形として認識できるのだ。

私は大丈夫。昨日も話したように岡部の主観では私は死んでしまうわけだけど、私はこの世界線では現に生きているわけで。
岡部がβ世界線に行った瞬間、私の居る現在のα世界線は岡部という存在が初めから存在していない世界になるのかもしれない。
あるいは、β世界線に拒否されている私は、この廃墟のような世界に一人だけ残されて他はみんなα世界に行ってしまうのかもしれない。
あるいは、私だけ消えてしまうのかもしれない…
あるいは…



かもしれない、かもしれない、かもしれない…!
でもだからって、まゆりを見殺しにしろなんて言える訳無い。
二人とも助けるなんて虫のいいことは不可能に決まっている。
だけど私を選んだらあんたのことを一生恨むと、紅莉栖は叫ぶ。

彼女は、達観してもなく冷静でもなかったのだ。
自分が消えてしまう恐怖と、昨日からずっと一人で戦ってきた、いたいけな少女なのだ。
たかだか18歳の少女にそこまでのものを背負わせてしまったオカリンは思わず彼女を抱きしめ、そして決断を下す。

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紅莉栖を世界から排除する決断を。

どうしてもまゆりを救いたいから、紅莉栖は救えない…

「わかった…」と彼女はつぶやき、ラジ館を去り、そして…
ラボからも去る。
「ちゃんとやるべきことをやりなさいよ」という内容のメールを残して。
メールの題名は「see you」。「good bye」ではないところに、救いがある。あるいは、願い。

その夜、まゆりがラボにやってくる。
今日はコミマの日だったが、まゆりはオカリンが気になって行かなかったのだ。

まゆりは常々、オカリンの重荷になりたくないと思っていた。
何故ならまゆりが祖母の死に直面して壊れかけていた時、それを救ってくれたのがオカリンだから。
だから、今度はまゆりはオカリンの役に立ちたいと、ずっと思っていたのだ。
それが、先のタイムリープ前に死に行くまゆりが放った言葉の真実だった。

まゆりはオカリンの悩む姿は見たくない。何でも聞きたい。共有したい。そう訴えかける。
全てが終わりに近づいている今、オカリンは遂に、まゆりに真実を語る。

鈴羽のこと、フェイリスのこと、ルカ子のこと、萌郁のこと、FBのこと、綯のこと、そして、紅莉栖のこと――

まゆりは泣きはらす。
皆そんなに重いものを引きずって、戦ってきたのか。なのに私は…
どうあっても紅莉栖に会いたいと、まゆりは切に願う。
紅莉栖はその願いを聞き入れ、明日の早朝に会ってくれるという。


早朝。

彼女は大きなキャリーバッグを持っていた。
アメリカに帰るためだ。

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思わず紅莉栖に飛びつくまゆり。
自分を助けるために消えないでと、涙ながらに訴える。
訴えるが…

「でも、あなたは岡部にすごく愛されてる。あなたが消えたら、岡部はすごく悲しむ。」

だから――私が消える。
同情されても、自分が惨めになるだけ。
だから、振り返らない。

「あなたは、幸せになりなさい。」

そう言い残し、彼女は始発の電車に消えていった。

オカリンは紅莉栖を犠牲にし、まゆりを選んだ。
これはもう、ただのエゴだ。
まゆりを失いたくない。ディストピアな未来などよりも、ただ、まゆりを失いたくないのだ。

まゆりはこれまで見てきた夢――自分が死んでしまう、それを何とか助けようとしているオカリンの夢。
何度も何度も見てきた夢。
それは全て真実だったと、今確信した。

「幸せに、してください」
まゆりは涙に塗れた笑顔で、オカリンに訴えかける。

それが、紅莉栖との約束だから。


その日の昼、ラボに集うオカリンとダル。
IBN5100の解析を終えているダルにより、もうSERNのデータベースをクラックできる準備は出来ている。
キーを押せば、「牧瀬紅莉栖が殺された」、このメールがデータベースから消える。
それにより、世界は戻る。
まゆりが死なない、SERNのディストピアも達成できない、本来あるべきβ世界線に。

一時は8人にまで増えたラボメンも、今は再び3人に戻った。
かけがえの無い仲間たちを犠牲にして、ついにオカリンはここまでたどり着いた。
勝利の時は来た。
今度こそ、全てが終わる。

白衣の肩口に施された、紅莉栖が不器用に縫ってくれた跡をぐっと握り締めつつ、
オカリンは手を振り上げ…

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キーを押す。

世界は、再構成される――!

シュタインズゲート 48日目 「まゆりとオカリン」

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今オカリンが居る世界線はα世界線。
「牧瀬紅莉栖が殺された」というDメールがSERNに感知されてしまった為に、まゆりが死んでしまい、超管理社会というディストピアに未来が分岐する世界だ。

まゆりを助けるには、β世界線に行くしかない。
そこはオカリンが一番最初に居た世界。
SERNに目を付けられず、よって未来は分岐せず、結果まゆりの死も何も起きない、これまでと変わらないユートピアが続く世界であり――
紅莉栖が誰かに殺されてしまった世界だ。

まゆりが助かる世界線に行くことは、紅莉栖が死んでしまう世界線に行くことだ。
どちらかを選べばどちらかが死ぬ、そんなのオカリンに出来るわけが無い。
なんとか二人とも助ける方法は無いのか、考える時間を得る為にオカリンは3日前にタイムリープしたが、結論など得られなかった。

そうしてラジ館の屋上で一人悶々としていたところを、紅莉栖に見つかる。
彼女はいい子だ。どの世界線でもオカリンを助けてくれた。
その彼女を殺さねばならないのか、他に方法は無いのか?
まゆりを助けることは、紅莉栖を殺してしまうことだ。
その懊悩を聞いた紅莉栖は…思いのほか、冷静だった。
自分が死んでしまう、消失してしまうかもしれないのに、達観していた。

そもそも阿万音鈴羽の言っていたアトラクタフィールド理論、それ自体本当なのかと紅莉栖は問いただす。
アトラクタフィールドとは、世界は基本的に一本線だが、細かいところで幾つか分岐することもある。
しかし必ず一本の線に収束する、というものだ。
これは本当に正しいのか?

現在オカリンたちが居るα世界線と、オカリンが行こうとするβ世界線。
ここでオカリンがβ世界線に移動すると、α世界線が無くなってしまうのか、あるいは二本が同時に存在するのか、それはわからないのだ。
なぜなら世界線の移動云々と言うのはこれまで起こった全てが、オカリンの主観であるからだ。

オカリンの主観からすれば、オカリンがβ世界線に移動すると紅莉栖が助からないわけで、結果的にオカリンが紅莉栖を殺してしまったと思えるかもしれない。
しかしα世界線に居る紅莉栖から見れば、オカリンは紅莉栖が死んでしまったというβ世界線に移動したに過ぎないのだ。

オカリンがほいほい世界線を移動するたびに世界が再構築されるならば、世界はオカリンを中心に回っていることになる。
でもそれではオカリンはまるで、神様だ。
ということは、同じ脳を持っている同じ人間の紅莉栖だって、同じ神様と言えるかもしれない。

鈴羽が未来から来たということも、アトラクタフィールド理論も、今の紅莉栖達では証明する術が無いのだ。
である以上未来は依然として無限の可能性の塊であり、証明できない事に気を病んでいてもしょうがないじゃない。

紅莉栖はそう天才科学者らしく結論付けたが、平たく言えば、「気にするな」と言ってくれたのだろう…

その時、まゆりから電話が来る。

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オカリンは最近まゆりと話し込んでいない。それはオカリンはまゆりを助ける為に帆走し煩悶し続けているからだ。
そのことを知る由も無いまゆりは、自分がオカリンにとって重荷になっているのではと自分を責める。

そんなことは断じて無いのに。
重荷だったら、こんなに何度も苦労してタイムリープしてDメール消去などするものか。
他の大切な仲間を犠牲にしてまで…

「それなら、その思いを素直にまゆりに伝えた方がいい。」

非リアの助手に諭されるオカリン。ぐぬぬ…
でも、そうだ。
まゆりがそう思っているなら、そうでないことを伝えた方がいいに決まっている。

が、まゆりとの携帯は何故かつながらない。
コミマ会場にも行ってみたが、居ない。
どこに言ったのだ…?この時間はまだ「世界に殺される」時間ではないが…
あと考えられる場所は…まゆりの祖母の墓だ。
昔はよくまゆりといっしょに墓参りに行っていたから。

果たして、そこにまゆりはいた。
まゆりは墓前で、自分の心境を吐露していた。

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最近、怖い夢を見るという。
誰かに銃で撃たれたり、車に轢かれたり、電車に轢かれたり。
その都度オカリンが助けてくれるのだ。
そしてその都度、まゆしぃは大丈夫だよというのだが、オカリンには聞こえない。
そんなところで目を覚ます、と…。

まゆりもまた、フェイリスやルカ子と同じく、分岐した様々な世界線のことを思い出せるのだ。
これはオカリンのリーディングシュタイナーというほどでもないが、人は誰でも、夢やデジャブという形で、異なる世界線を認識できるのかもしれない。

そしてまゆりはさらに吐露する。
最近オカリンと話していなくて寂しいと。

オカリンがラボを一人で設立した時、やや遅れてまゆりはラボにやってきた。
そこで二人だけの気だるい時間を過ごしていた。
あまり何も話さず、同じ空間を過ごしていただけだけど、オカリンがどう思っていたか分からないけど、そんな時間が、泣けるほど嬉しくて。
何故そう思うのか、うまく言葉に出来ないけれど。

やがてラボメンは増えた。紅莉栖・萌郁・フェイリス・ルカ子・鈴羽。
オカリンは彼らとすごい楽しそうにしていた。
オカリンが楽しそうだから、まゆりもすごく楽しくなった。

でも、二人だけの気だるい時間を過ごす事は、もうできなくて。
でもオカリンが楽しいなら、それでいい。
ずっと二人だけでこのまま、というわけには行かないから。

すると…

「まゆりは、今のままでいい」

と、オカリンはまゆりに話しかける。
そんなオカリンを見て喜びに溢れるまゆり。

やっと、二人の心がつながったのだ。
なんとなく、掛け違えたボタンのようだったお互いの気持ちが、やっとここでぴったり合わさった。

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二人は家路に着く。
これまでも、これからも、変わらぬ関係で居る為に。

けれどその関係を望むのならば、紅莉栖を消失させなければならない――

シュタインズゲート 47日目 「天秤」

FB、つまり天王寺からの携帯から、過去の萌郁の携帯へ、IBN5100捜索中止のDメールを送る。
これにより、先の世界線…萌郁がFBにIBN5100を見つける任務を遂行したメールを送り、結果萌郁もFBも死んでしまう未来は回避される、はずだ。

結果…リーディングシュタイナー、発動。
世界線、移動。

移動した世界線では、萌郁は先の世界線のように鬱極まるようなことも無く、いつものぼーっとした萌郁に戻っていた。
そして携帯依存も元に戻っている。任務中止、つまり任務が遂行されない以上、FBは萌郁を見捨てることは無いからだ。
そしてFBが死ぬことも無い。FBが生きている以上、綯が狂気に走ることも…無い。

ただ当のFB本人は任務停止のメールは送ってないわけで、この点の齟齬が明るみに出たらどうなるかはわからないが…
とにかくこの世界線では萌郁はIBN5100の捜索を止めているはずで、故にIBN5100はラボにある世界線になっているはずだ。
そしてそれは…

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間違いなかった。
ついに、ついにオカリンは、IBN5100が手元にある世界線にたどり着いたのだ。

この世界線では既にダルはIBN5100の使用方法を解析しており、いつでもSERNのデータベースをクラッキング出来るという。
おお!

さぁ、あとは一番最初にオカリンがダルに送ったDメールの内容をSERNのデータベースから削除すればいいだけだ。
このDメールを世界諜報システムエシュロンが感知し、SERNのデータベースに収められてしまった為、オカリン達はSERNに目を付けられてしまった。
つまり、どうあがいてもまゆりを救えず、やがて紅莉栖もSERNに拉致され来るべきディストピアの礎となることが確定した世界――α世界線に分岐してしまった。

この最初のDメールを「無かったこと」にすればいい。

そのDメールの内容は、「牧瀬紅莉栖が殺された」。

そのメール内容は、エシュロンを通じSERNのデータベースに記載された。
このことがきっかけで、世界はα世界線に分岐した。
ならば、SERNのデータベースからこれを消せば世界はα世界線に分岐しないはずだ。
オカリンたちがSERNに目を付けられない、まゆりが死なないβ世界線に戻るはずだ。

戻る。

戻る…?

戻るっ…て?

戻るということは、牧瀬紅莉栖が殺されたと世界線に、戻るということだ。
つまり…

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牧瀬紅莉栖は、死んでしまう。
まゆりが助かる世界線に行くことは、牧瀬紅莉栖が死んでしまった世界線に行くことなのだ。

まゆりを助けたければ、紅莉栖を殺せ。
紅莉栖を助けたければ、まゆりを殺せ、ということだ。

鈴羽、フェイリス、ルカ子…
大切な仲間たちの思い出を全て消し、やっとIBN5100を手に入れた世界線に戻ってきたオカリンを待っていたのは、余りにも酷い選択だった。

オカリンは即刻クラッキングを中止する。
まゆりは大切な幼馴染だ。
しかし、紅莉栖も大切な仲間なのだ。
もう、何度タイムリープして、その度に何度紅莉栖に勇気付けられてきたことか。
どちらを選ぶなんて出来ない、出来るはずがない。

オカリンは散々悩み、結論も出ず…8月17日になった。
オカリンはまゆりと一緒にコミマに出かけた。
これまでどおりなら、まゆりは今日死ぬ。

ならば最後は、まゆりが喜ぶことをしてあげたい。
事実、まゆりはとてもうれしそうだ。

これまでオカリンは何十回とまゆりの為にタイムリープしており、帆走し続けたオカリンはすっかりまゆりと話す機会が無くなってしまった。
まゆりはそれが寂しかったのだ。
何故寂しかったのは、まゆりもわからない。
いや、薄々感じている。
オカリンもだ。
互いの気持ちは、もう、薄々感じている。
けれど、まだ気持ちは微妙にすれ違いだ。

そしてそのすれ違いを残したまま、17日の夜――

ラボに戻ろうとするオカリンとまゆり。
しかし、ラボは明かりがついていない。
誰も居ないだけかもしれないが、この世界線ではFBも萌郁も健在であり、IBN5100の捜索も再び続けられているかもしれない。
まゆりを待たせて注意深く道を渡ってラボに近づくオカリンだが、そこに…白いワゴン車が、オカリンめがけて突っ込んできた。

オカリンが轢かれそうになった瞬間。
まゆりがオカリンを庇い――身代わりに轢かれてしまった。

死に行く彼女は、最後にこうつぶやく。

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やっと、役に立てたと。

役に立てた?なぜまゆりがオカリンの役に立とうとするのだ?
まゆりはオカリンのことを、どう思っていたのだ?

最後まで気持ちがすれ違ったまま、まゆりは星空に手を伸ばし・・・そして死んでしまった。
数々見てきたまゆりの死の中で、これが一番心を抉られた。

わかっていたはずだ、まゆりの気持ちも、自分の気持ちも。
それをお互いうまく伝えられないまま、まゆりは死んでしまった。
タイムリープしてこの事実から目を背ける事は簡単だ。
しかし、お互いの気持ちに沿おうとするなら、β世界線を選ぶならば…
紅莉栖は死んでしまう。

出口の見えない迷路を延々とさ迷い歩くように、オカリンは再びタイムリープする。

シュタインズゲート 46日目 「歪みの連鎖」

オカリンと桐生萌郁に銃を向けてくる「FB」こと天王寺。

SERNのルールとして、こうある。
SERNの下部組織であるラウンダーの目的は、IBN5100の回収。
そしてそれを発見した者は、例外なく、殺される。

阿万音鈴羽は過去の世界で全資産を失って打ちひしがれていた天王寺を助けた。
だからこそ天王寺は、人間らしい生活を営むことが出来た。
その彼がSERNの手先だったとは、鈴羽はどんなに悲しむことか。
オカリンは歯軋りしながら天王寺に訴える。
それを聞いた天王寺は…

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自分のこめかみにピストルを当てた。

ラウンダーとは、萌郁のように、現実世界で生きていくことが出来ないはみ出し者を集めて作られた組織。
そして一度ラウンダーとしてSERNに仕えたならば、SERNに反抗する事はその家族まで消されることを意味する。
天王寺の大事な、隣で寝ている一人娘の綯に危機が及ぶということだ。

加えて、ラウンダーは目的を果たせば、消される。
ラウンダーはSERNの犬…というより、家畜なのだ。
それは同じくラウンダーである天王寺も例外ではないのだ。

どうしてこんなことになっちまったのか。
自嘲気味に笑いながら、天王寺は、自害する…



なんとも後味の悪いものを残しながら、オカリンはFBの携帯を手に入れた。
そうして天王寺の家を出るが、そこで待っていた紅莉栖にふと話しかけられる。
天王寺の娘、綯がささっと裏口から出て行ったことを。
父親の自殺を見たのか?それにしては冷静すぎるが…

とりあえず萌郁の家に戻るオカリンたち。
FBの正体を知った萌郁はショックを受けているが、心が壊れる程ではない。
既にオカリンと何度かの心の通ったやり取りを通じて、メンヘラコミュ障な彼女は一皮剥けたのかもしれない。
もう、FBが居なくても立ち直るかもしれない。新しい人生が歩めるかもしれない。

しかし、この世界線では萌郁はやがて死んでしまうはずであり…それは事実になった。
ただしそれは自殺ではなく…他殺だった。
ひょっこり現れたに、背中から包丁を刺されてしまったのだ。

綯の目は…尋常ではなかった。無垢な少女の目ではなかった。
その目は、憎悪に染まっていた。
父親の死を見たからか?いや、何かが違う。
綯はオカリンを一瞥し「お前は15年後に殺す」とつぶやき、笑いながら去っていった。
どういうことだ…一体この世界線は何なんだ?
何故こうも狂っている?天王寺も、萌郁も、綯も!

しかしわかっている事は一つだけある。
この歪みは全て、オカリンのDメールから始まっている。
オカリンが最初に送ったDメールをSERNが感知した事で、世界は歪み出したのは間違いない。

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萌郁は致命傷を受け、死んでいく。
これまでのことを後悔しながら。
そしてこの世界線ではまゆりを殺していないが、FBからの命令であれば躊躇無く殺していたであろう事を、オカリンに謝罪しながら、彼女は死んでいく。

こんな状況になっても、萌郁は自分の弱さと過ちを認め、相手に素直に謝ることができる女性なのだ。
根っこはすごく純真な、いい子なのだ。
歯車の掛け違いさえなければ、萌郁は普通に幸せな人生を営めたかもしれない。

オカリンにとっては許すことの出来ない萌郁。しかしその境遇を汲み取り、オカリンは彼女を赦す。
なぜなら彼女の歪みもまた、オカリンのせいかもしれないからだ。

気になるのは綯だ。どうしてあそこまで狂ってしまったのか?
その理由を突き止めるためにタイムリープし、天王寺自害後、綯が家の裏口から出るところを捕まえる。
そこで彼女は、恐るべき事実を語りだす。

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笑いながらオカリンの腕をナイフで切り刻みながら。

綯は、15年後の記憶を「思い出した」のだ。
天王寺は自害した。しかしそれを止めなかった萌郁と、そもそもの元凶であるオカリンを、綯はこれから先の15年間ずっと恨んでいたという。
15年後ラウンダーとなった彼女は、SERNに対抗するレジスタンスのリーダになっていたオカリンを拉致、監禁。
激しい拷問の末死に至らしめたという。

そして彼女はラウンダーにより摂取されたオカリン達のタイムリープマシンを用いて、単純計算で2738回タイムリープ。
実際はトラブル等でその倍以上の数のタイムリープをし、執念で未来から現在の世界まで戻ってきたのだ。

オカリンがこの世界線に来た時に見たタイムリープマシンの挙動、あれは未来の綯が行った最後の跳躍だったのだ。
父親を見捨てた萌郁が自殺するのを許さず、自らの手で復讐を下す為に。

そしてこの世界線では、オカリンは15年後に死ぬ。これは現在ではどうあってもオカリンを殺す事は出来ないことを意味する。
世界がこの時点ではオカリンの死を望んでいないからだ。
未来からの知識でそのことを「思い出した」綯は散々オカリンをいたぶった後、笑いながら去っていった。
萌郁を殺す為に。

純粋無垢だった彼女をここまで変えてしまったもの。
それもまた、オカリンがもたらした歪みの結果だった。

傷の痛みに耐えながら、オカリンはふと考える。
天王寺はなぜ、IBN5100を萌郁が見つけた時点で殺さなかったのか。
SERNのルールならまっさきに萌郁が殺されてしかるべきなのに。
思うに、天王寺は萌郁を生かしたかったのかもしれない。
自ら連絡を絶つことで、萌郁を自立させたかったのかもしれない。
天王寺も根っこは純粋で、人の痛みがわかる、いい人なのだ。
そんな天王寺もまた、オカリンが歪ませた一人なのだろう。

全ての原因は、オカリンがDメール実験を安直に推し進めたことにある。

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ならば、消す。
これまで送ったDメールの痕跡は、全て消す。

獲得した天王寺の携帯、つまりFBの携帯から、萌郁へ指令を出す。
IBN5100の捜索は中止せよと。
そうすれば、萌郁はIBN5100の捜索を止め、それ故にFBも萌郁も目的未達成となり、両者に死が訪れる世界線では無くなる筈だ。
それはそのまま綯の歪みが修正されることも意味する。

綯の復讐は、果たされない。そもそも、FBが死なない世界線になれば、その動機が無かったことになるはずだから。
そしてIBN5100が盗まれず持ち出されもせず、ラボにそのまま存在している世界線になる、はずだ――